剱岳登山の一日目は、室堂から剱沢までの事を綴った。
この記事は前回の記事の続きの二日目の記事である。
朝

剱沢で迎えた朝。
朝食を食べ、今日の登山の準備を進めていると、剱岳の裾の稜線の向こう側の空がだんだんと曙色に染まっているのが見えた。
その夜明けを知らせる朱色に、仄かに神々しさを感じた。

準備を済ませて、テントに心許のセキュリティ、小さな南京錠をかけて出発。
朝五時
昨日の疲れが残っていたのか、すっと起きる事が出来なかったので、遅めの出発。
剱沢でキャンプしていた学生の集団のテントは主が既に山へ発った後のようで、とても静かだった。
剱沢の雪渓


剱沢小屋から真砂沢ロッジに向かう夏道の途中で雪渓に降りて、雪渓を源次郎尾根取り付きまで歩く。

雪渓の上は、少しひんやりとした空気が満ちていて、朝の空気感も相まって静謐であった。

源次郎尾根取り付き
目印の大岩は直ぐに見つけられたので、源次郎尾根の基部は直ぐにわかったのだが、どこから取り付くのかよくわからず、右往左往。
結局我々は、長次郎谷側の傾斜の緩いガレ場から登る事にしました。多くの人は、平蔵谷側の壁を登るそうだ。
先行パーティの滑落
私たちが取り付きで右往左往している最中に山の中から人の大きな声が聞こえた。先行パーティが居ることは遠目に目視していたので、その人たちが、楽しくて盛り上がっているのだろうと思っていた。
しかし、現実は違っていた。
先行パーティの一人と思わしき人が、私たちがいる少し上の斜面を少々挙動不審な様子で降りてくるのが見えた。
その人が、私たちの声が届く位の高さまで降りて来た時、Kが声をかけたところ、仲間の一人が滑落したとの事。
山の中では電波が入らないので、救助を要請するために一人で降りて来たとの事である。
単身降りて来た方とKと私の三人のスマホで代わる代わる剱沢の派出所に電話をかけていると、奇跡的に4Gで一本電波が立っていたKのソフトバンクが架電に成功、救助を要請する事が出来た。
私のスマホのスターリンクではどうもダメでした。考え物である。
富山県警からの連絡を受電出来るのが、現状Kのスマホだけだったので、富山県警から留まれないかと要請を受けた。勿論快諾し、私たち二人も、降りて来た方と共に現場に留まることにした。
救助を待つのみと言う状況になった段階で、降りて来た方は、山中に置いてきた仲間が心配だからと、先に上の方へ戻った。私たち二人は救助の到着を待った。
話を聞くと、滑落者はお助け紐を握った手がスッポ抜けて、最初の岩場で落ちたようであった。
見た感じ、そのパーティは装備もしっかりしていたし、技量が無い訳ではない様に思えた。
技量に関係なく、誰にでも起こる可能性がある事故、我々も否応なしに気を引き締められた。

救助隊到着
救助は一名が先遣され、私達の姿を確認すると滑落者の元へ凄まじい速さで源次郎尾根取り付きの草付きを駆け登っていった。
剱沢の雪渓を駆け下りてくる様は、神通力を得た天狗の如く、凄まじい速さであった。
程なくしてもう一人到着し、二人で応急処置をして、滑落した方はヘリで病院へ搬送される事になった。
登る判断
既に朝の8時を回っており、我々は源次郎を登るか、剱沢に戻るか、迷う。
救助隊の一人が、我々を見て、足が速そうだから行っていいよと言って下さったので、私たちも安心して登る判断を下す事が出来た。
かくして、私たちの登山はスタートした。
明日は我が身、慢心せず、人間を謙虚に保ち、行動しよう。
私に、そう思わせる滑落事故であった。
最初の岩場


件の事故現場であろう、最初の岩場。
人が落ちたばっかりなので、慎重にホールドを探す。
身長169cmの私がリーチいっぱい伸ばして左手が届く場所にいいホールドがあった。
リーチ問題。
Kをフリーで登らせるのは危険と判断、ロープを出して確保。
事故なく、最初の岩場を越えることが出来た。
それからしばらくは、藪の中の岩登り。

程なくして、ひらけたテラスに飛び出ると、剱沢の雪渓を見渡せる場所に出た。

少しの小休止。すると、けたたましい音を立てて県警のヘリが現着。滑落者を搬送したのだろうと、ホッと胸を撫で下ろした。
二つ目の岩場
源次郎尾根核心部の二つ目の岩場。
ここでも慎重を期して、ロープによる確保を行う。

左側が切れ落ちているので左から壁に取り付くのは少し怖いが、左側の方が登りやすかった。初見では無理感を感じるかも。
この岩場を登ってしばらく歩くと樹林帯を飛び出し、ハイマツと岩の楽園に出る。




ここからは快適な尾根歩きだ。

ガバホールドのスラブをガシガシ登る。




ニセ一峰

一峰へ登り上がる直前、右手に一見登りやすそうなピークがある。ここをガシガシ登っていると、右側が谷筋に向かって真っ直ぐ切れ落ちている壁になっていて、おや? 何かおかしいぞと思い、引き返すことに。
ヒリヒリと痺れるようなクライムダウンになった。
間違えた。
私のルートファインディングミスにご立腹のK。
偽ピークを左巻きに歩くと一峰のピークへトップアウト、抜群の景色に癒された。


二峰へ
一峰を二峰とのコルへ下り、二峰へ向かって登り返す。

中々の高度感と岩登り、ハイマツと岩の間を縫うように登る。
ステミング地獄で身体がきつかった。
懸垂下降
小一時間登ると傾斜が落ち着いて、程なくして二峰の懸垂下降ポイントに到着、ロープを下ろして、Kから下降。


60mを一本持ってきているので連結する事なくスムーズに降りることが出来た。
剱岳
いよいよ本峰が眼前に迫ってきている。
後は目の前で本峰に向かって伸び上がる様に聳える稜線をひたすらに登るだけである。

途中、振り返る。下降した二峰の壁が見える。とても格好良い。




歩いたり、岩壁をよじ登ったり、程なくして登頂。

時刻は16時。
誰もいない剱岳山頂はどこか厳かな特別な空気感が漂っていた。
下山は別山尾根
長い。


カニのヨコバイは緊張するが、ここを越えると、後は単調な下山。


小屋のビールにありつけるかどうか瀬戸際の時間。
がんば……がんば……。
と、念仏のように心中自らを鼓舞する。
ビール

剣山荘の売店が開いていたので、ビールにありつけました。やったぜ。
そこからはえっちらおっちら剱沢を目指して歩きます。

剣山荘から剱沢小屋のコースタイムは絶対に20分じゃない。
剱沢派出所
下山後に寄るようにと、県警の方に言われていたので立ち寄りました。
搬送された方の様子を聞き、命があった事に安心。
酒と眠り
テントに戻りビールを飲んで、就寝。
無事に感謝。
充実の山行であった。